腰を痛めて、介護を続けられるか迷っている方がいます。コルセットが手放せない、朝起き上がるのがつらい、あと何年この体がもつのか分からない。
この記事では、腰痛を個人の体力の問題ではなく、作業の設計の問題として扱います。国の指針がそういう考え方をしているからです。
この記事の要点
国の指針は「原則として人力による抱え上げは行わせない」としています。根性で持ち上げることは、推奨されていません。
腰痛が起きる場面は偏っています。保健衛生業では、移乗介助中の発生が最も多くなっています。
移乗の回数と環境は、働き方によって大きく変わります。
1. 腰痛は、あなたの体が弱いからではありません
介護の仕事で腰を痛める人は多く、身体的な負担は労働条件の悩みの上位に入っています。個人差の話ではありません。
腰を痛めたとき、多くの人がまず自分を責めます。体の使い方が下手だったのではないか、鍛えていないからではないか、と。
公益財団法人介護労働安定センターの令和6年度介護労働実態調査を見てみます。労働条件や仕事の負担についての悩み・不安・不満を尋ねた結果では、「身体的負担が大きい」と答えた人が24.6%いました。およそ4人に1人です。
出典:公益財団法人介護労働安定センター「令和6年度介護労働実態調査」介護労働者の就業実態と就業意識調査(2026年10月時点で公表されている最新の調査結果)
4人に1人が同じことを感じているなら、それは個人の資質の話ではありません。仕事の組み立て方の話です。
介護の仕事を辞めた理由を調べた調査では、上位に来るのは職場の人間関係や運営のあり方への不満です。ただ、その陰で体を理由に現場を離れる人がいることも、この24.6%という数字は示しています。腰を痛めて介護を続けられなくなるのは、珍しいことではありません。
どの場面で起きているかは、分かっています
厚生労働省がまとめた資料によると、保健衛生業(社会福祉施設や病院を含みます)で起きている腰痛のうち、移乗介助中の発生が35%を占めて最も多くなっています。
出典:厚生労働省 労働局「職場における腰痛予防対策」啓発資料(2026年10月時点)
つまり、腰痛は介護という仕事の全体に均等に散らばっているのではありません。人を持ち上げて移す、という特定の動作に集中しています。
これは重要なことです。原因の場所が分かっているなら、対策の方向も決まるからです。
2. 国の指針は「抱え上げない」と言っています
厚生労働省の腰痛予防対策指針では、全介助が必要な方の移乗について、原則として人力による抱え上げは行わせないこととされています。
職場における腰痛予防対策指針という、国が示している指針があります。福祉・医療分野の介護・看護作業についても項目があり、そこにこう書かれています。原則として、人力による人の抱え上げは行わせない。
リフトやスライディングシートといった福祉用具を使うこと、どうしても人の手で行う場合は複数人で行うことが示されています。抱え上げない介助の方法は、ノーリフティングケアとも呼ばれます。
出典:厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」(福祉・医療分野等における介護・看護作業)
ここで確認しておきたいのは、国が「気をつけましょう」と言っているのではない、という点です。抱え上げること自体を、原則として行わせないと書いています。
一人で持ち上げて腰を痛めたとしたら、それはあなたの力が足りなかったからではありません。一人で持ち上げなければならない状況が、そもそも推奨されていない作業のやり方だったということです。
ノーリフティングケアで使われる道具には、いくつか種類があります。体を吊り上げて移すリフト、摩擦を減らして滑らせるスライディングシート、立ち上がりを補助するスタンディングマシンなど、場面によって使い分けます。どれも「持ち上げない」ことを目的にした道具です。
ただし、現場に行き渡っているとは限りません
指針があることと、すべての現場でそのとおりに運用されていることは別です。福祉用具が置かれていても使う時間がない、人手が足りず複数人で対応できない、という職場はあります。
だからこそ、職場を選ぶときに確認する価値があります。この記事の後半で、何を聞けばよいかを挙げます。
3. 腰にかかる負荷は、働き方の構造で変わります
同じ介護でも、1日に何回、どんな環境で移乗を行うかによって、体にかかるものは変わります。
腰痛の発生が移乗介助に集中しているなら、負荷を決めるのは次の3つです。
回数——1日に何回、人を移すか
環境——その場所が、体勢を取りやすいかどうか
慣れ——その方の体の状態を、どれだけ知っているか
施設で複数の方を担当する働き方では、この3つがいずれも厳しくなりがちです。短い時間に何人もの移乗が続き、相手によって体格も可動域も違い、しかも次の人が待っています。体勢を整える余裕がないまま、次の動作に入ることになります。
これは、その職場が悪いという話ではありません。多くの人が同じ時間に動く場所では、そういう構造になりやすいというだけのことです。
重度訪問介護の場合
CILひかりでは、1日に担当する利用者は1名です。複数の家を掛け持ちして回ることはありません。
この形だと、先ほどの3つが変わります。1日に関わるのは一人の方だけなので、移乗の回数そのものが限られます。場所も同じ部屋、同じベッド、同じ車椅子です。そして同じ方を繰り返し担当するので、その方の体の状態や、どう動くと負担が少ないかが分かってきます。
毎回ちがう人を、ちがう場所で、急いで持ち上げる。その反対にある働き方だと考えていただくのが近いと思います。
同じ方を担当し続けることには、もうひとつ意味があります。その方自身が、自分の体のことをいちばんよく知っているからです。どこを支えられると楽なのか、どの角度が痛いのか。重度訪問介護では長い時間をそばで過ごすので、それを本人から教わる機会があります。
介助する側が一方的に工夫するのではなく、本人と一緒に方法を決めていく。結果として、お互いに無理のない形に落ち着いていきます。
見守りの時間があるということ
重度訪問介護には、常に手を動かしているわけではない時間があります。利用者が読書をしている、眠っている。その間、介助者は同じ空間にいて、必要になったときに動けるようにしています。
この時間も勤務時間として給与の対象です。8時間のあいだ体を動かし続ける仕事ではない、という点は、腰に不安を抱えている方にとっては意味のある違いです。
4. それでも、負担がゼロになるわけではありません
体を使う仕事であることに変わりはありません。腰痛が治る働き方、という意味ではないことをはっきり書いておきます。
ここは正直に書きます。重度訪問介護でも、移乗の介助はあります。排泄や入浴の場面では、体を支えることもあります。姿勢に無理がかかる瞬間は、なくなりません。
長時間の勤務もありますし、夜勤もあります。体への負担が小さい仕事だと言うつもりはありません。
お伝えしているのは、負荷のかかり方の形が違うということです。回数と環境が安定していて、同じ方の体のことを知ったうえで介助できる。その違いが、体への影響にどう出るかは、人によって違います。
それから、勤務時間の長さについても書いておきます。重度訪問介護は一人の方の生活に長時間付き添う仕事で、夜勤もあります。拘束時間が長いこと自体は、体にとって楽な条件ではありません。見守りの時間があるとはいえ、同じ姿勢で過ごす時間が続けば、それもまた腰にはこたえます。
すでに腰を痛めている方へ
持病や既往がある場合、仕事を選ぶ前に主治医に相談されることをおすすめします。どの程度の動作まで大丈夫なのかは、私たちには判断できません。
そのうえで、見学で実際の介助の場面を見て、ご自身の体で続けられそうかを確かめていただくのがよいと思います。文章だけで判断できることではありません。
5. 職場を選ぶときに、確認したい3つのこと
腰痛の原因が移乗に集中している以上、聞くべきこともそこに絞れます。
① 1日に何回、移乗がありますか
担当する人数ではなく、移乗の回数で聞いてみてください。人数が少なくても回数が多いことはありますし、その逆もあります。体にかかるものは回数で決まります。
② 福祉用具は、使える状態にありますか
あるかどうかではなく、使える状態かを聞くのがポイントです。置いてあっても、動かすのに時間がかかる、置き場所が遠いといった理由で使われていない現場があります。
③ 一人で持ち上げる場面は、ありますか
いちばん直接的な質問です。国の指針が原則として行わせないとしている動作が、その職場で日常的に発生しているかどうかを確かめることになります。
CILひかりに対しても、この3つはそのまま聞いていただいて構いません。
※本記事は健康上の助言を行うものではありません。腰痛の症状や治療については医療機関にご相談ください。統計・指針に関する記述は2026年10月時点で公表されている情報にもとづいています。
Q. 腰痛の既往がありますが、応募できますか
A. 応募そのものに制限は設けていません。ただし、どの程度の動作が可能かは医師にしか判断できませんので、主治医にご相談のうえでお考えください。見学で実際の介助場面をご覧いただくこともできます。
Q. 重度訪問介護なら腰を痛めませんか
A. そうは言えません。移乗の介助はありますし、体を支える場面もあります。1日1名担当であるため移乗の回数と環境が安定している、という違いがあるだけです。
Q. 腰痛対策の研修はありますか
A. 入職後の新人研修に、ボディメカニクス(体の使い方による腰痛対策)の実習が含まれています。