言葉で話すのが難しい方と、どう関わる?重度訪問介護の意思疎通
話すことが難しい方の気持ちを、自分に読み取れるだろうか。重度訪問介護に関心を持った方の多くが、そこで立ち止まります。この記事では、意思疎通の方法と、何より大切にしたい姿勢についてお伝えします。
「気持ちを察する」仕事ではありません
重度訪問介護の仕事内容を調べていくと、利用者さんの中には、声で話すことが難しい方もいらっしゃると知ります。そのとき多くの方が、こう感じるようです。「相手の気持ちを、自分に読み取れるだろうか」「察しが悪くて、失礼なことをしてしまいそうだ」。
先にお伝えしておきます。重度訪問介護は、相手の気持ちを察して動く仕事ではありません。
話すことが難しくても、意思ははっきりある
病気や障害によって、声で話すことが難しい方がいらっしゃいます。けれど、話すことが難しいのと、考えや希望がないのとは、まったく別のことです。
何を食べたいか、今日はどう過ごしたいか、体のどこをどう動かしてほしいか。ご本人の中には、はっきりとした意思があります。伝える方法が、声ではないというだけです。重度訪問介護を利用している方々がどんな暮らしをしているかは、利用者さんについて紹介した記事でもご覧いただけます。
察するより、確かめる
意思がはっきりある以上、介助者の役割は、それを「当てる」ことではありません。ご本人に確かめることです。
「たぶんこうしてほしいのだろう」と先回りして動くことは、一見やさしく見えます。けれど、それが本人の希望と違っていたら、その方の選択を代わりにしてしまったことになります。察しの良さより、確かめる手間を惜しまないこと。この仕事で求められているのは、そちらです。
意思疎通には、いろいろな方法があります
では、声で話すことが難しい方とは、実際にどうやって意思を伝え合うのでしょうか。代表的な方法をご紹介します。
声や表情、視線から
声が出にくくても、短い言葉や表情、うなずき、視線の動きで意思を伝える方がいらっしゃいます。慣れないうちは聞き取りにくいこともありますが、その方の話し方のリズムや癖が分かってくると、伝わる量はぐっと増えていきます。
まばたきや文字盤を使って
「はい」はまばたき1回、「いいえ」は2回、といったように、あらかじめ合図を決めてやりとりする方法があります。
また、五十音が並んだ透明な板(文字盤)を使う方法もあります。ご本人が見ている文字を介助者が読み取り、一文字ずつ言葉にしていきます。時間はかかりますが、細かな気持ちまで伝えることができる方法です。
意思伝達装置などの機器を使って
わずかな体の動きや視線で操作できる機器を使って、文章を作ったり、音声で読み上げたりする方もいらっしゃいます。
こうした「重度障害者用意思伝達装置」は、障害者総合支援法にもとづく補装具費支給制度の対象になっています。意思を伝える手段を持つことは、暮らしに欠かせないものとして、制度の上でも位置づけられているのです。
主な意思疎通の方法
声・表情・視線:短い言葉やうなずき、目の動きで伝える
合図:まばたきの回数などで「はい」「いいえ」を伝える
文字盤:五十音の板を見てもらい、一文字ずつ読み取る
意思伝達装置:わずかな動きや視線で機器を操作し、文章や音声にする
方法は、その方ごとに違います
ここで挙げたのは、あくまで代表的な例です。実際には、いくつかの方法を組み合わせていたり、その方ならではの合図があったりします。同じ文字盤でも、使い方は人によって違います。
ですから、「意思疎通の方法を事前に全部覚えておかなければ」と身構える必要はありません。大切なのは、目の前の方がどう伝えるのかを、その方から学んでいくことです。
分からないときは、分からないと伝えていい
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。
確かめることは、失礼ではありません
読み取れなかったとき、聞き返すのは申し訳ない。何度も確認したら、相手を疲れさせてしまう。そう感じる方は多いと思います。
けれど、分からないまま「たぶんこうだろう」と進めてしまうほうが、ご本人にとってはずっと困ることです。「今のは、こういう意味で合っていますか」と確かめることは、相手の意思を大切にしている証です。失礼なことではありません。
ポイント:求められているのは、察しの良さではなく、確かめる姿勢です。分からないことを「分からない」と言える人のほうが、現場では信頼されます。
急がず、待つ
文字盤で一文字ずつ言葉をつくるとき、ひとつの文を伝えるのに時間がかかることがあります。そのとき、介助者が先を急いで言葉を補ってしまうと、ご本人が本当に言いたかったこととずれてしまうことがあります。
途中で予想がついても、最後まで待つ。時間がかかることを、焦らずに受け止める。それだけで、伝え合いはずっと確かなものになります。
勝手に決めないことが、いちばん大切
CILひかりは、障害のある方が自分の人生を自分で選び、決めていくことを支える「自立生活センター(CIL)」として活動しています。大切にしているのは「自己選択・自己決定」という考え方です。自立生活センターの考え方については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。
自己決定というと大きな話に聞こえるかもしれません。けれど実際には、「今日はどの服を着ますか」「このくらいの角度でいいですか」という、日々の小さな確認の積み重ねでできています。意思疎通に時間がかかる方の場合、その確認を省いてしまえば、決める機会そのものが失われてしまいます。
だからこそ、勝手に決めないこと。これは介助の技術以上に大切な、この仕事の土台です。面接で「利用者さんの意思を尊重できるか」を見ている理由もここにあります。詳しくは面接についての記事をご覧ください。
最初から読み取れる人はいません
ここまで読んで、「それでも自分にできるだろうか」と感じた方もいらっしゃると思います。
方法を教えてくれるのは、ご本人です
意思疎通の方法は、教科書で覚えきれるものではありません。その方がどう伝えるのか、どんな合図を使うのか。それを一番よく知っているのは、ご本人です。
最初はうまく読み取れなくても、ご本人に教わりながら、少しずつ分かるようになっていきます。関わる時間が長くなるほど、伝わることは増えていきます。1日に1人の方と長い時間を過ごす重度訪問介護は、その積み重ねがしやすい働き方でもあります。
研修や同行の中で、少しずつ
CILひかりでは、入職後の研修に加えて、先輩スタッフが利用者さんのお宅へ一緒に入る同行の期間があります。いきなり一人で意思疎通を任されることはありません。
具体的な進め方は、担当する利用者さんやご本人の経験によって変わりますので、面接の際にお伝えしています。仕事全体の流れは仕事内容のページでもご紹介しています。
現場のスタッフも、最初は同じでした
今、現場で自然にやりとりしているスタッフも、最初から読み取れたわけではありません。聞き取れずに何度も聞き返したり、合図の意味を取り違えたりしながら、経験を重ねてきました。
「自分にできるかな」という気持ちから始めたスタッフの話は、長野さんのインタビューでご覧いただけます。
意思疎通の支援は、制度にも位置づけられています
最後に、意思疎通がこの仕事の中でどれほど大切な役割を持っているかを、制度の面からお伝えします。
入院したときにも、その方の言葉をつなぐ
重度訪問介護を利用している方が入院したとき、病院のスタッフが、その方独自の意思疎通の方法にすぐ慣れるのは簡単ではありません。体の向きや痛みの伝え方など、細かな希望が伝わらないことで、入院生活が大きな負担になることがあります。
そのため重度訪問介護には、入院前から支援を受けていた方について、その方と意思疎通ができるヘルパーが病院と連携しながら支援を続けられる仕組みがあります。令和6年度の報酬改定では、この仕組みの対象となる方の範囲も広がりました。
その方の言葉を分かる人がそばにいること。それ自体が、支援として制度に認められているということです。意思疎通は、この仕事の周辺にある技術ではなく、中心にある役割です。
まとめ
重度訪問介護は、相手の気持ちを察して動く仕事ではありません。話すことが難しい方にも、はっきりとした意思があります。介助者の役割は、それを当てることではなく、ご本人に確かめることです。
意思疎通の方法は、声や表情、まばたき、文字盤、意思伝達装置など、その方ごとに違います。方法を教えてくれるのはご本人で、最初から読み取れる人はいません。分からないときは、分からないと伝えていい。急がずに待ち、勝手に決めない。それが、この仕事でいちばん大切にしている姿勢です。
察しの良さに自信がなくても、確かめることならできる。そう感じていただけたなら、この仕事に向いている素地は十分にあると私たちは考えています。
Q. 言葉で話すのが難しい方と関わった経験がなくても大丈夫ですか?
A. 経験がなくても大丈夫です。意思疎通の方法はその方ごとに違うため、経験のある方でも、担当する方ごとに一から教わっていきます。入職後の研修と先輩スタッフとの同行を通して、少しずつ身につけていただけます。
Q. 文字盤などの使い方は、どこで覚えますか?
A. 実際の使い方は、担当する利用者さんご本人や、先輩スタッフから教わりながら覚えていきます。同じ文字盤でも使い方は人によって違うため、事前に完璧に覚えておく必要はありません。
Q. どうしても読み取れないときは、どうすればいいですか?
A. 分からないまま進めず、ご本人に確かめてください。「今のはこういう意味で合っていますか」と聞き返すことは、失礼なことではありません。一人で判断に迷うときは、先輩スタッフに相談できます。